もちろん、あのお給料はすてきだったけれど」と彼女は説明する。
でも、大丈夫。
きっとそのうち慣れるから。
本当のところ、転職していちばんつらいのは、自分が今、どこにいるのかわからないことなの。
法律事務所では、自分の地位がはっきりしていたわ。
肩書や給料といった、明確な指標があったから。
自分の上には誰がいて何があるのか、自分の下はどうなのかが、はっきりわかっていた。
そういうわかりやすさが懐かしいわ。
だからときどき、朝起きると自分にこういい聞かせているの。
「今の仕事はそんなに悪くない。
子供といっしょにいる時間も増えたし、人助けになる仕事なんだし、それに職場の人はみんないい人じゃない。
今の時点ではこうするのがいちばんなのよ」って。
「現実を見なさい、R。
このままじゃあなたの人生は袋小路よ。
家族と過ごす時間が増えたのは素晴らしいことだけど、実はそれも楽しいことばかりじゃないでしょう?キャリアにしたって、あなたは大リーグに背を向けて、自ら進んでマイナーに落ちてきたのよね。
あの輝かしい将来の夢はどうしちゃったの?」自分でもおかしいと思うけど、両方とも本心なのよ。
Rが抱えるキャリアの悩みを、自信のなさと勘違いしてはいけない。
気持ちが揺れ動くのは、以前に地位のはっきりした組織で働いていて、現在はそのような指標のない職場にいる人にとっては、よくあることだ。
とりわけ、復帰するのは難しいとわかったうえで、家族のためにキャリアを一時あきらめた女性の場合は、特に気持ちの揺れが大きくなる。
また、フリーランスや自営業の人たちも、進歩の指標がほとんどなく悩みや疑問ばかりがある中で、キャリアを確立していかなければならない。
次にあげるのは、Dの物語である。
「ぼくはカタログ用に洋服の写真を撮っています。
まあ、それは生活のための仕事で、家賃や子供の教育費や新しい道具を買うお金はそれで稼ぎます。
ほかに、芸術的な仕事もしています。
それは新進のロックバンドの写真を撮ることで、将来には大金を稼げる仕事になってくれると期待しているんです」。
特にDが誇りに思っている仕事は、最近出た二枚のCDのカバー写真と、雑誌に掲載された一枚の写真だ。
しかし、キャリアの行方についてはそう楽観していないという。
「自分は才能のある立派なプロで、ただ大器晩成型なだけだと思えるときもあるんです。
でも別のときは、自分も地味な仕事でこつこつ稼ぐ、その他おおぜいの写真家にすぎないんだと考えてしまう。
いつかは成功して大金を稼ぐことを夢見ているけれど、その夢も年を追うごとに非現実的な感じがするようになっています」。
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